Vol.56  1976年・春の夜の幻想 ~白い幽霊たちの宴~    written by  ハリー比賀戸

あれは、1976年、桜の舞う4月の事だった。

まだ外は少し寒かったが、日中照りつける日差しは暖かく、遠くない夏の訪れを告げていた。

世の中はロッキード事件で揺れていた。

田中角栄首相が致命的な立場に追いやられつつあった、そんな頃だった。


僕はあの日、夜の駒沢公園でひとり、空を見上げていた。

好きな女がいた。

そして、たった数十分前、彼女を失った。

僕は愛情の表現を知らない子供だった。


きっと50歳半ばを超えた今でも・・・



1975年の年末頃から、僕は初めての恋愛を経験した。

彼女の名前は海老かすみ。

とりたてて美人でもないけど、明るく、目のくっきりとした顔立ちの

2歳上のバイト先の先輩だった。

セミロングのさらっとしたストレートヘアが清楚な印象を感じさせながらも

屈託の無い笑顔と持ち前のジョークセンスは、バイト仲間の間でもムードメーカー的な役割を果たしていた。


とてもウマが合い、週末にはバイト仲間皆で飲みに行ったりしたが

飲み屋でもいつもかすみの隣に座り、べったりだった。

かすみは22歳で國學院大学生だった。

僕は20歳で名前を言うのも恥ずかしい程の大学の2回生。

しかも1浪している。


当時流行っていたブーツファッションには今一つ乗り遅れながらも

スカートとストッキングにスニーカーというスタイルだった。

僕はそんな、流行に左右されない、というかちょっと疎い感じのするかすみのそんな部分も好きだった。

僕自身、四国の田舎から出てきたしがない4流大学生だったこともあって、

東京の、しかも地元出身の女性にはコンプレックスがあったのだと思う。

上京してくる多くの地方出身の若者にありがちな、「東京の女性は皆最先端で洗練されている」

…そんな幻想を持っていた。


そんな中、かすみみたいな女性もいたことを知って、なんだかホッとさせられたのだ。

そういうことが余計にかすみに対してフランクに接することができた原因だったのかもしれない。


周囲もほとんど気づいていたが、かすみとは付き合っていた。

そして、彼女は僕にとって初めての女性だった。

それまでオナニーしか性欲処理の仕方を知らなかった僕に

かすみは初めて女を教えてくれた。


初めてかすみとセックスをした夜の事がずっと忘れられない。

付き合い始めて2ヶ月ほど経ったその年の1月の終り頃だった。


緊張して勃起しなかったチンポを、かすみはそっとやさしく口に含んでくれた。

とんでもない気持ちよさだった。

その未体験の熱い温度の中、生き物のような舌使いで包皮をゆっくりと剥かれ、

緊張は快感に変わり、むくむくと勃起をしていった。

そしてゆるやかで、ねっとりとした上下運動に、敏感な亀頭は耐えきれず、

あっという間にかすみの口の中で果ててしまった。


初めての異性との性体験に、性欲はとどまることを知らなかった。

服を中途半端につけたまま、汚い煎餅布団の中で、かすみを強く抱きしめた。

射精したばかりのチンポが、すぐに再生し、かすみの陰部のあたりを圧迫していた。

すぐに挿入したくなった。

我慢できず、かすみのスカートも下さずに、パンティを太股のあたりまでずらせ、

そこで生まれて初めて女性器を見た。

薄暗かったけど、陰毛の下の部分に見え隠れしているピンク色の肉ひだ。

顔を近づけると、そんな神秘的な光景とともに、ツンと鼻をつくような厭らしい匂いがしてきた。

その肉襞の中央の花芯部からは少し、透明な液体が溢れ始めており、

それを指で触ってみると、ぬるりとしていた。

その光景、その匂いに、とてつもなく興奮した。

すぐにそこにチンポを入れたくなった。

しかし、入れる場所がわからず、焦っている僕を見ていたかすみは

そっと右手でチンポの皮を剥き、自分の花芯の中心部へと誘導してくれた。


ぬるりと、チンポはかすみの花芯の中に飲み込まれていった。


その例えようも無い快感に、思わず、息を飲んだ。

挿入後、4、5回ほど腰を動かしただけで射精しそうになり、動きを止めた。


かすみはそんな僕を優しくリードしてくれ、

自ら腰を動かし射精に導いてくれた。


かすみはもちろん初めてじゃなかった。

僕の前に4人くらい経験があるらしかった。

その事は本人に追求しても、ほとんど言いたがらなかったけど。


とにかく、最初の夜はコンドームを付けていなかった。


「いいよ、徹朗、そのままで。」


「えっ」


パンティは脱ぎ、ミニスカートを履いたままかすみは僕の上で動き始めた。


あっ あっ かすみ、かすみっ!!


初めてかすみの中で大量に射精したときのあの快感は忘れられない。

セックスを覚えるようになってから、僕は狂ったようにかすみと交わり続けた。

途中でコンドームなど付けなくなっていた。

慣れてくると射精寸前でチンポを抜き、かすみの陰毛部からへそのあたりにかけて膣外射精をしていた。

時には連続で中で出すこともあった。


だんだんとかすみを支配しているような気持ちになっていき、

そしてかすみと離れられなくなっていった。


バイトでも、かすみが他のバイトの男と話しているのを見ているだけで嫉妬した。

かすみに他の男とは必要最低限の会話しかするな、と自分のエゴを押し付けるようになっていた。

事あるごとに過剰なまでにかすみを束縛していた。


その頃からか、かすみは僕に少し嫌気がさしていたのか、

あまりアパートに来なくなっていた。


誘っても、口実を作ってなかなか来なかった。

避けているようにすら思えた。


かすみのいない夜は辛かった。

いつもひとつの布団で二人、裸で抱き合い、睦み合い、

泥のように眠っていたことを思いだすにつれ、

狂ったようにオナニーを続けるばかりだった。


その頃、自分の中では疑心暗鬼と嫉妬が支配していた。

同じバイトの奴から、妙な噂を聞いていた。

かすみが背の高い男と新宿を歩いていたのを共通の知り合いがたまたま見た、というのだ。

かすみはその男の腕両手を絡ませながら。

どう見ても怪しい関係だったと。


僕はその噂を聞いたとき、身を焼かれるような思いだった。

最近全然うちに来なくなったことや、バイトでのよそよそしさを考えるに、

新しい男の噂は真実としか思えなかったのだ。


背の高い男…

男前だったらしい…


僕はそれに比べ、背は低く、顔も並み以下だ。

ファッションセンスのかけらもない田舎者。

喧嘩も弱い。

強いのは性欲くらいなものだ。


ずっとコンプレックスの塊だった男が

突如湧きあがった幸運に心を奪われ、その後一気に転落させられた時の

苦しみを想像してみてくれ。


ましてや一番好きな(唯一の)女を取られたのである。


ひとり、狭いアパートの部屋で苦しみ、オナニーをし、やり場のない怒りと不安を

抱えて悶々とする日々が続いた。

バイトも勝手に辞め、途中から行かなくなった。

大学も元々出席率が低かったが、より一層、講義には出なくなっていた。


しかし、そんな日々を送っていても自分自身が苦しいだけだ。

違うバイトを探し、新しい生活に身を投じたかったが、心身ともに落ち込んでいたし

とても外に出ていくなんて気力がなかった。


たまに出ても、魂の抜けた人形のようにぶらぶらと近所を歩き、

近くの駒沢公園の中をあてどもなく彷徨うだけだった。

自分の悲蒼感あふれる心の中に反して、駒沢公園はあまりにも美しかった。

美しい桜が満開に咲いており、太陽の日差しを浴びて、ほとんど白に見える。

そして花を咲かせている太い幹は漆黒で、強く、どっしりとした安定感がある。

そんな素晴らしい樹木が連なって花を咲かせている。

幸せそうな子供連れの家族やカップルだちが遊歩道を歩く中、

僕だけが無明の闇の中をさまよっているのだった。


僕は公園内のあちこちをさまよっているうちに決意していた。

この公園に今夜かすみを呼び、もう一度あの頃に戻れるよう話をしたいと。

バイト先はここからすぐ近くだ。

帰りにちょっとだけなら寄ってくれるだろう。


今日はかすみが出ている日だと、事前に前のバイトの仲間から聞いていた。


公園の公衆電話からバイト先に電話をかけた。

黙って辞めたので、店長が出たらそのまま切るつもりだった。

少しドキドキしていた。


3回コールがあって、出たのは知らない女の子だった。


「あ、あの、海老かすみはいますか?家のものですが」

「はい。少々お待ちください」


僕の名前を言うとかすみが出ない可能性があるので家の者だと嘘をついた。

やがて電話口の向こうでかすかに会話が聞こえ、かすみが受話器を取った。


「はい、もしもし?」


咄嗟に、何を言っていいのかわからなくなった。


「…」

「もしもし? もしもし?」

「あ、あの、俺…」

「はい?もしもし?誰?」

「て、徹朗…」

「えっ?徹朗?」

「ご、ごめん、家の者だって嘘ついてしまって。」

「…」

「だってそう言わなきゃ出てくれないと思って」

「…どうしたの…?」

「あ、その、今日さ、話があって。大事な。聞いて欲しくて。

バ、バイト。バイト終わったら、そ、その、途中の駒沢公園の前で待ち合わせできないかな?」


しばらく沈黙があった。


とても長く感じた。


「どんな 話…」

「それは… お、俺達の事で」

「話だけ?」

「そ、そう。もちろん…」


またしばらくの沈黙のあとに


「・・・わかった。8時すぎるかもしれないけど、ちょっとだけなら…」

「うん。少しでいいから。待ってるから。電話ボックスのとこで」


何かから逃げだすように電話を切ると、僕は急に足取りが軽くなっているのに気づいた。

今夜かすみに会えることが、それだけのことが心の中を覆っていた暗雲を吹き飛ばしてくれた。

早足でアパートに戻った。

かすみが自分のもとに戻ってきてくれるかもしれない。

話せばきっと解ってくれる。

そういうふうにしか考えられなかった。

話がダメになり、またあの地獄のような苦しみの生活を続ける気力はもはや僕には無かった。

だから、自分の中で、かすみとの事は復活すると強く言い聞かせるしかなかった。


夜になるのが待ち切れなかった。

まるで、初めて恋人とデートの待ち合わせをするような気持ちで時間が過ぎるのを待った。

かすみとの一番良い時期の事を思い出して、2回、オナニーをした。

かすみのあのむちっとしたストッキングに包まれた脚。

あのミニスカート。

ちょっと背の高いかすみの後ろから挿入したときのかすみの髪の匂い。

そして蒸れていたオマンコの匂い。

そのオマンコをいじっていると溢れ出てくる白っぽい愛液。

たまらなくなってそこにチンポを入れようとすると

「ダメよ、銭湯に行ってから!」と制するが、僕の勢いに負け、結局汗をかいた体で交わり続けたあの日々。

何回も中で出した。

その強烈なまでの甘い蜜のような思い出ばかりが頭の中を渦巻いている。

その度に勃起したチンポはかすみを欲しがる。

たまらなくなり、皮に自ら唾液をたらし、オナニーに没頭する。


部屋の中がとても青臭い匂いでむせかえっていた。

ロクに窓も開けず、掃除もしない汚い部屋。

カップラーメンの食べ残し、煙草の山になった灰皿、積み重なった少年マガジン、

倒れたゴミ箱が吐き出している無数のしおれたティッシュ、くしゃくしゃになってロクに干したことの無い煎餅布団。


そんな汚い殺風景な部屋もその数時間は僕にとって天国のような空間に感じられたのだった。


途中眠ってしまったようだった。

外はすっかり陽が落ちていた。

時計を見ると6時50分。


伸びをして、体を掻き、煙草に火を点ける。


しばらくはぼーっとしていたが、すぐに8時の待ち合わせのことを思い出した。

それまでに銭湯に行ってこようと思った。


財布をあさると、740円あった。

今月末の仕送りまであと5日ほど。

今日は特別な日だから風呂くらい入ろう。

残り540円もあれば5日くらいなんとかなる。

それにもう4日以上髪も洗ってない。

今夜は少しでもかすみに好印象を持ってもらわなきゃ。


そう決意し、近所の銭湯まで歩いていった。

久しぶりに隅々まで洗った。

オナニーばかりで、チンポの皮の周りにはティッシュのカスやらなんやらが

結構ついていたが、それも綺麗に流し、石鹸で洗った。

石鹸のぬるぬるで、気持ち良くなり、また勃起しそうになったが、

周りに人がいるからあまり変な事は出来ない。

厭らしいことを想像するのを我慢して、皮を剥き、亀頭も丹念に洗った。

そしてシャンプーをした。

爽快だった。

銭湯から出ると身も心も生まれ変わったようだった。


この足取りの軽さ。

つっかけでスキップをしていた。


山口さんちのツトム君♪


当時流行っていた歌を小さな声で勝手に口ずさみはじめていた。


一度アパートに戻り、水を飲み、心を落ち着けてから一番いい洋服に着替えた。

といっても、上等な服なんか持っていない。

「一番まともな服」という表現のほうが近いだろう。

膝の抜けていないジーンズを見つけ出し、白のTシャツ、その上に紺色のウインドブレーカーを羽織って

白のスニーカーを履いた。

銭湯でひげも剃ったからさっぱりとしている。

まだ乾ききっていない髪をとかした。

髪は結構伸びているけど、銭湯から出てきたばかりで水分があるので

なんとかごまかしはききそうだ。

あと約束の時間まで30分そこそこだ。


外に出ると、両手をジーンズのポケットに突っ込み、ゆっくりと駒沢公園に向かった。

待ち合わせの場所に10分前に到着した。

あたりはすっかり暗くなって、駒沢公園内の外灯が点き始めていた。

その光の向こうに、ぼんやりと満開の桜が映し出されていた。

こうしてみると、その妖艶で淡いピンクの花の群れは

闇の中に浮き出した幽霊のように見えた。


風が少し強くなっていた。

春の花の群れがざわざわとうごめき、それにつられるように、何故か僕の心もざわざわと蠢きだした。

先程まで、風呂上がりで気持ちが爽快だったはずなのに

なんだろう、この不思議な胸騒ぎのような感覚は。。


かすみ。

本当に来てくれるのだろうか…


待つこと10分が過ぎた。

約束の8時だ。

2分過ぎている。


通りを見る。

人が結構歩いているし、夜なのでかすみと見分けがつかない。


15分が過ぎようとしていた。

相変わらず来ない待ち人に、不安の雲がまたたくまに僕の心を包み始めた。


そして幽霊のざわめき。


またしても失望感にかられはじめた時に、

僕の近くまで小走りでやってくる影に気がついた。

僕はどきっとした。


強くなっていく風に、かすみが髪を弄ばれながらやってきた。

「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

そう言いながら左肩にバッグをかけたかすみは

あの頃の雰囲気とは何か違っていた。


僕はそんなかすみを見てとまどい、何も言葉を発することができなかった。


そうだ、髪型だ。

髪型が変わっていた。

ストレートだった髪にカールがかかっていた。

そのカールヘアは風に揺られ、風がさらってきた桜の花びらが数枚、まとわりつく。

かすみは僕を見て、ちょっとだけ口元を緩ませ、

「待った?」

と聞いた。

久しぶりにこんな近い距離でかすみを正面から見て、僕はなんだかバツが悪く、目を逸らせてしまった。


「あ、ああ。いや、俺もさっき来たから…」

「なあに、話。あまり長くはいれないけど…」

「用事あるの…?」

「うん… 今日はちょっと…」

「誰かと会うの?」

「…会うわ」

背の高い男  黒い暗雲  幽霊のざわめき

「誰と…」

セックスの巧い男  お洒落なセンス  自己嫌悪

「…話す必要ないわ」


少し、かすみの声のトーンが落ち、そして突き放された。


今日の午後からずっと胸に暖かな期待を育てていたのに

その一言で僕の心に暴風が吹き始めた。

僕はいつしか子供になっている。


「どうして。俺達、もうダメなの?」

「… 徹朗、もう 終わったんじゃん」

「何が!?何が終わったの? まだ何も終わって無いよ!」

「ダメだよ。私が… 私がもう」

「かすみ!もう一度俺と、俺とやり直してくれよ」


幽霊の沈黙  雲に覆われる月  五つ子誕生のニュース


「…ゴメン、徹朗。もう、終りにしよ… これで」


頭頂部に落雷が走る。

外灯のひとつがその灯りを手放すように切れる。

風がより強く唸る。


「ダメ!ダメだ、かすみ、どこへもいかないでくれ!頼む!」

「…ゴメン。もう徹朗とはダメだよ… 好きな人がいるんだもん…」


今度はかすみが目を背ける。

カールした髪になお桜が舞い寄る。

ミニスカートからはベージュのストッキングに包まれたあの脚が見える。

それをまるごと放棄するなんて


・・・


出来るわけがない。


頭に血が上り、かすみの肩をつかむ。


「ダメだ!絶対ダメだ!俺だ!俺と一緒に… アパートに!」


かすみが後ずさりながら僕の手を逃れるように動く。

もう一度、かすみを抱きたい。

ふたりきりで朝を迎えたい。

強引にかすみを引き寄せ、抱きしめる。 強く。


腕から抜けだそうともがくかすみ。

巻き髪の微かなコロンの香りに背の高い男への強烈な嫉妬が再生される。

かすみが暴れる。


「離して!離してったら!イヤだ!」


かすみをそのまま引きずって、公園の奥へと連れ込む。

周囲の通行人がちらほらとこちらの様子を気にしている。


「いやだあああっ!」


もはや泣き声に近いかすみの声に哀しみ、傷つきながらも僕の中の獣が咆哮をあげる。

勃起していた。

ジーンズのチャックからそれを取り出し、かすみのスカートの中に押しつけていく。


「やめてっ お願いだからやめてっ イヤっ イヤッ」


強い力でかすみを制し、無理やりスカートの中に片手を突っ込み、ストッキングとパンティをずらす。


「イヤだっ 助けてっ!! 公一~っ!!!



閃光  避雷針の幻聴  盲目の土へと還る



一番聞きたくなかった言葉が真っすぐに心臓に突き刺さった。

意地悪く、瞬間の脳死を本能が薦めた。


けれどもその脳死すら選択できない純粋な怒りは

かすみのスカートを捲りあげ、後ろから強引に勃起したチンポを押し付け、入り口を探す。

秘密の花園は健在だった。

なんの準備もできていないそこへ、ねじ込むように悔恨の毒蛇を送り込む。


「イヤだああっ ダメっ だめえぇぇぇ!!!」


ロクに濡れていないかすみの花びらの中に、皮被りのチンポをねじ入れるように押し込んだ。

花びらに皮が返され、赤く充血した亀頭が露出される。

亀頭から滲み出ている透明な液体がかろうじて花びらへの通行手形の役割を果たしたのか、

その柔らかな肉芯に狂った欲棒が埋まっていく。


腰が猛烈な怒りで動く。


「あっ! アッ! アッ! イヤっ! イヤッ!!」


少し痛がり、拒否しながらも、かすみはそのかつて受け入れ続けた僕の動きに自らの腰も同調させはじめる。


「ああっ かすみ!かすみ! かすみいいっ!!!」

「アッ! アッ! やめ・・ アアアッ!!」


かすみの後ろからのしかかり、押しつぶすように挿入し、腰を突き入れる。



「やだ… やだよ… こんなの… ヤメテ」


ヤメテ


テツロウ


ワタシはアノヒトガスキなノ


ワタシはアノヒトノモのナノ


モウアナタトハ イラレナい


オネガイダカラ ワタシヲ ハナしテ


オネガいダカラ


オネガイ


オネ・・




僕は涙を流しながらかすみを犯し続けた。

かすみの本物の心の声ひとつひとつが

研ぎ澄まされた刃であった。

それはあまりにも鋭利過ぎた。


犯されているのはかすみだが

切り刻まれているのは僕自身だった。



地獄の業火のごとき仕打ち


狂った鬼の所業


饒舌なエゴの報復




そしておそらく


これまでで一番罪深い射精

自分だけが愛する相手の中に…


わずかでも己が自身を残そうと


僕を捨てるなら

一滴でも僕を連れて行ってくれ


かすみは必死になって僕を突き飛ばし、足をもつれさせながら逃げる。

僕から遠く、遠く、出来るだけ遠くへ。


僕はそれを

何故か高い空の上から見ている。


僕は罪の風になっている。

満開の桜の花びらをさらって、かすみを追いかけるように。

けれども白い幽霊たちはかすみの巻き髪に絡みつくばかり。


僕は強い風だった。

1年という歳月をかけ、こんなにも美しく、

花をつけた桜へ対しても奪うことしか出来なかった。


いつしか公園の電話ボックスの中でへたりこみ、泣き続けたのだろう。

顔を預けていたボックス内のガラスが曇っている。


それを見続けている。

曇りガラスにかすみの名前を指で書く。


お前の彼氏もおかしな奴だ


哀しみ。

後悔。


君は僕の全てを奪っていった。

僕はこれからどうすればいいんだろう。


風がずっと強くなっている。

もはや周囲の桜はすべて風に飲み込まれ、散らされる。

淡い桃色の吹雪が幽霊のざわめきとなって

公園を覆い尽くす。



僕はその中でただただ、立ち尽くすだけ。

白い幽霊達の宴が始まっていた。

僕の後悔と落胆、自己嫌悪、悲哀、苦しみ

ありとあらゆる感情が今宵の幽霊たちの肴。


僕は明け渡す

自分の弱さを

そして

自分の哀しみを


この白いざわめきに


春の夜の公園はあまりにも美しすぎた。

そしてあまりに哀しすぎた。


僕は何もできず、ただただその場に立ち尽くすだけだった。

大人への成長を拒むように僕は自らの殻の中へと深く、深く潜り込んでいく。

この頬をつたう一滴が何なのかを、舞い散る幽霊たちは気にもかけないのだった。

そんな僕の、深くえぐられた心の傷をあざ笑うかのように、

桜吹雪が吹き荒れていた。

1976年、狂おしい春の夜の事だった。



【終り】
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