Vol.69  ミチンとの青春#3~エンドレス・サマー~    written by  ペグ葉山

ミチンの細く、艶めかしい指先が

俺のペニスの皮を上下に運動させる。

ミチンは俺のペニスを真上から見下ろし、

興味深そうに皮から現れては隠れる亀頭に見入っている。


あの日から、俺達はほぼ毎晩のペースで出会い、車の中で夏の夜を共にしている。

夜ご飯をお互いに家で済ませてから、俺の車でミチンを迎えに行く。

海岸沿いの誰もいない松林に車を停め、夜空と暗い海を見ながら話をする。

俺はシートを倒し、そこに寝転がり、ミチンが俺の上に乗り、身体を重ねた状態で

何度もキスを交わし合う。

やがて俺は我慢ができなくなり、ミチンの胸を洋服の上から揉みはじめる。

3回目でスカートの中に手を入れ、ミチンのパンティを超え、敏感な果肉にも触れる事を許されていた。

キスを何度も何度も交わし合い、お互いの舌をとことん絡め合い、胸を愛撫し、首筋をねぶりまわした後では

ミチンの果肉は夥しい愛液で濡れていて、指を触れただけでも敏感な反応をする。


指を2本入れ、掻きまわすようにしながらもディープキスを続けると

ミチンはのけぞるように狂おしく、甘い声をあげる。


「あぁぁ… いや…ン はぁぁ… あン…」


俺もその前戯とミチンのいやらしい牝の反応を目の当たりにし、我慢ができなくなる。

「入れたい…」

とミチンの手を俺の盛り上がったジーンズの中心部に誘導する。

ミチンは誘導された掌で、丁寧に俺の勃起の形を撫でながら

「まだ… ダメ…」

「どうして… 俺、ミチンが欲しいよ…」

「もうちょっと、待って。ね… 今日も手で… 手でしたげるから…」

と俺にキスをしてくる。

キスをしながらミチンは俺のジーンズのジッパーをゆっくりとおろしていく。


そして俺も腰を浮かせ、ジーンズをおろし、パンツをおろし…

いつもの至福の瞬間が訪れる。


ミチンはゆっくりと俺の弩張したペニスを指でつまみ、

亀頭を包んでいる皮をおろしていく。

途中、亀頭からのカウパー液が溢れ出て、ミチンの指先に絡みつく。

俺の心臓とペニス全体が脈をうち、腰が浮くほどの快感が奔る。

最初のうちはカウパーの潤みが皮と亀頭の間に馴染み、

くちゅくちゅといやらしい音を立てているが、やがてカウパーも干あがり、

先程までの滑らかさが失われていく。


その状態で皮の運動だけを続けられると、少し痛くなってくる。

時折、腰を引いてミチンにストップをかける。


「ゴメン、痛かった?」

「あ、いや、ちょっと。」


皮をおろしたままで摩擦されると

突っ張ってしまって確かに痛い。

俺は自分でオナニーをするときには潤滑液として

自らの唾液を皮の間に落としているのだ。

でも、自分で今、それをする訳にもいかない。

そんな事ミチンの前では恥ずかしくってとてもできない。

でも、あの皮と亀頭の間の潤滑油がとても気持ちいいのだ。


俺はミチンの口でしてもらえないかと頼んだ。


「えっ 口で…」


ミチンはしばらく俺の亀頭を見続けていたがやがて


「あんまり上手くないかもしれないけど…」


と言いながら髪をかきあげるように俺のペニスにゆっくりと唇を合わせる。


皮を被ったペニスをミチンの唇が覆っていく。

ぎこちない動きで、皮全体を唇で包み、先程のような運動をはじめていく。


うわっ


俺はその未体験ゾーンの感覚に悶絶した。

生温かいミチンの口の温度と、口内の感覚。生き物のような舌が時折

少しだけ顔を出した亀頭に触れるか触れないかの瞬間にビクン!とペニスに電流が奔る。


ミチンは慣れない口さばきで懸命に指をサポートに使いながら

奉仕してくれる。


その健気な姿と初めての口淫行為にあっという間に射精感が湧きあがってくる。


「あっ、み、ミチン もう…!」


とそこまで言ったときにミチンは慌てて口を離して

指ストロークに切り替える。


ミチンの唾液でかなり潤った皮周りからはぐちゅぐちゅとイヤラシイ音が聞こえてくる。

その音にもとてつもなく興奮した。


ミチンは手の動きをだんだんと速めながら黙って俺の亀頭の先端を見つめている。


「あっ あっ! あっ!」


今夜も至福の瞬間が来た。

背骨から腰を引っこ抜かれるような快感が奔り、それが陰茎に伝わって

マグマの噴出契機となる。


びゅくん びゅくん びゅびゅびゅびゅっ

びゅる

びゅる

ぴゅー

ぴゅーっ


白く濁った若い欲望がとめどなく放出され、

最後の方では少量だが勢いのついた飛沫のような精液が車内に霧散する。


手をフルストロークしているミチンのブラウスにも顔の一部にも弾け飛ぶ。

「やっ スゴイ! ペグ今日は凄いっ~!」

とスローダウンさせながらも最後の最後まで絞り取るような動き。

ティッシュを何枚か取り出し、優しく拭いてくれる。

自分のブラウスよりも俺の性器周りを優先して綺麗にしてくれる。

そんな所作を見るにつけ、

この出来た年上女房がこの上なく愛おしかった。


ズボンを履いた後も、ミチンの事を抱きしめ続けた。

蒸し暑い夜だというのにミチンも俺も、額に汗を浮かべながらも

互いの恋の炎の熱さで気温など忘れている。

そして再びディープキス。


それは、二人にとって、世界でたったひとつの真実だった。


ミチンと本当に「契るその日」が決してやって来ないことが分かっていたら

俺はその夜にでも強引にミチンと結ばれようとしたに違いない。


その翌日からミチンとは会えなくなってしまった。

連絡は取れるのだけど、どうにも都合がつかないとの事。

さらにその翌日も同じ返事だった。

3日目になって、やっとミチンの返事がおかしいことに気が付いた。


会えない理由を聞いても、答えようとしない。

泣きそうな声で、ほとんどしゃべらない。


そのうち、疲れたようになって

「ごめんね、もうちょっと待って」

と、やっとそう言って電話が終わる。


そして1週間が経ち、

ミカンに連絡を取ってみる。

ミカンもミチンとずっと連絡が取れていないと言う。


「なんかおっかしいんだよね。最近。会社でもかなり元気がないっていうか。ペグとなんかあったんだって思ってた」

「まさか。俺達毎晩のように会ってたんだよ。それが突然会えないって…さっぱり分からないんだよ」


その会話の翌日から、ミチンは会社を休み始めたという。

その間、俺もミチンに電話するんだけど、本人はほとんど出なくて、親が代わりに出て、何か困ったような口調で

「ごめんなさいね… なんだか最近精神的にまいってるみたいな感じで… 私ら家族もロクに口を聞かないんですよ…」

との曖昧な返答のみ。


俺もミカンも、立場こそ違えど共にミチンにとって一番近しい間柄だっただけに

数日心配し続けた。



ある晩、ミカンから電話がかかってきた。

ミカンは半狂乱で泣いていた。


「どうしたんだ?何があった?」


ミカンが電話口でまともに話ができるようになるまで数分かかった。

えずきながらもミカンはミチンの死を告げた。

原因がよく解らない精神的な病気がやがて急激に体力を奪い、

死期の近づいたことを悟ったミチンはその日の夕方に、家の部屋の中で

手首の静脈を切ったのだった。

家の人間が気が付いた時には既に出血多量で心臓が停止していた。


俺は電話口の向こうのミカンの声が何を言っているのかわからなかった。

その一語一語が全く理解できなかった。

ミカンはなんとか気を取り戻し、興奮しながら、取り乱してミチンの死についてとぎれとぎれに説明をするが

俺にはその一語一語が届いてこない。


いや、届いてはいるのだが

俺の脳自体がその情報を拒否している。


足が床に付いている感じが全くしない。

頭の中に巡り始めるフィルムは、ミチンとのたった数日間の、

しかし濃密で甘い時間の無限のコマ送り。


受話器を持つ手が震えだし、

ミカンの訴えるような叫びが空虚な幻想に掻き消されていく。


ミチンも俺も実はこの世界に実在していなくて

これは誰かのお伽話か何かで、その話が終わるのが寂しいがために

どこかの子供がミカンに駄々をこねている。


俺はきっとそういう夢を見ているのだ。


顔面蒼白になって受話器も切らずにそのままふらふらと車に乗った。

ミチンの家まで運転した記憶などないけれど

ミチンの家の前まで到着したときには家の慌ただしげな様子が

外からでもはっきりと伝わってきた。


ミチンの家に入る事が恐ろしくてとても出来なかった。

世界は暗転していた。


ミチンの死を受け入れるまでに

俺は随分と長い時間がかかった。


そこからやっと涙が止まらないほどに流れ出た。

仕事も2週間出勤できなかった。

退職願を出したけど、新田先輩たちから随分喝を入れられ、

そして励まされて、なんとか人としての最低限のラインはキープできたようだった。

しかし、いつまで経っても、もぬけの殻もいいとこだった。

以前のように夜遊びも全くしなくなっていた。


9月も近くなったまだ残暑の厳しいある日、

ミチンの墓参りに行った。

ミチンの墓は、俺達の住んでいる町のはずれにある集合墓地にあった。

盆も終わり、誰も来なくなった時期に俺はひとり、ミチンの墓の前に立った。

小さな石碑にミチンの名前が刻まれていた。

オレンジ色の綺麗な菊のような花と白いつぼみをいくつかつけた花がセットで

両方の花差しに備えてあった。

墓の水差しに買って行ったバヤリースオレンジの缶をそっと置いた。

ミチンが初めて会った夜に買ったオレンジ色の缶。

バヤリースのイラストのオレンジのキャラクターを見た瞬間に涙が吹き出した。

あれだけ泣き枯らしたと思っていた涙が。

大粒の涙が。


もっと

もっと

ミチンと色んなところに行きたかった。

もっとミチンの事を知りたかった。

もっとミチンに優しくしてやりたかった。

もっと、もっと…


自分の性欲を優先し、欲望を満たす事しか考えていなかったあの数日間を

どんなに後悔してもしきれなかった。

墓に向かってひとり崩れ落ち、泣き続けた。

こんなにも悔しくてこんなにもやるせない気持ちがこの世にあるなんて信じられなかった。


出来る事なら

自分の命と引き換えに

ミチンを生き返らせて欲しかった。


そして俺でなくてもいい、

他の誰でもいいから

もっとミチンに恋愛でもなんでも心行くまで楽しい体験を山ほど味わってもらいたかった。

まだ、なにひとつ楽しい事なんかしてなかったじゃないか。

まだ、これからだったじゃないか。


あまりにも悔しかった。

哀しすぎた。

それなのに何故、欲望の塊の俺がここにいて

ミチンがここにいないのだ?


何故あのときもっとミチンのやりたいことを一緒にやってやれなかったのだ?


行き場のない怒りと自らの弱さを心の底から痛感し

失ったものの大切さを今更ながらに認識した。


それでも俺が生き続けるしかないこと、

それがきっとミチンも望んでいただろう事だと考えれるようになるには

俺はあまりにまだ若すぎた。


ミチンのあの優しい指使いのオナニーは生涯忘れる事など出来はしない。



20数年経った今尚、俺は誰とも結婚していない。

あの事があってから、何度かはその機会もあったけど、結局結婚まで到達できなかった。

ミチンに義理を立てているわけでもない。

かといって、ミチンを忘れさせてくれる女性にもこれまでに会えなかった。


今は個人で細々と自営業を営んでいるが

いまだにミチンという女の存在が忘れられずに、あの僅かな時期の車内での恋の事ばかり思いだしている。

その思い出はあまりにも美しく、切なすぎた。

後悔と自己嫌悪がふんだんに詰まっていながらも

ミチンの優しさと年上の女性の魅力、喪失感、無力感、愛、憎悪…


歳を重ねるほどに遠い日を懐かしむような生活が色濃くなっていく。

いや、あの日々を一日だって忘れた事はないかもしれない。


子供のような理屈だと言われるかもしれないけど、

もう一度、たった一度だけでいい。

ミチンとあと1時間だけでも一緒に過ごせたら、その後で俺は死んでもいい。


毎年、この時期の蒸し暑い夜には

狂いそうになるほどに

あの時の映像がありありと俺の中で再生される。


ミチンは、俺のたったひとつのかけがえのない青春なのだ。これからもずっと…



【終り】
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